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“使い捨てスマートフォン”が欠かせない北京冬季五輪、そのセキュリティリスクの深刻度

PHOTOGRAPH: DAVID J. PHILLIP/AP/AFLO

 “使い捨てスマートフォン”が欠かせない北京冬季五輪、そのセキュリティリスクの深刻度

プロスノーボーダーでビッグエアの選手でもあるジュリア・マリノが冬季オリンピック前の最終調整を終えたころ、マリノとチームメイトのもとに米国政府当局者から警告が届いた。中国の監視体制に関する警告である。新疆ウイグル自治区の文化は“消毒”され、“ディズニー化”している:ある写真家が捉えた抑圧の現場2022年の北京冬季オリンピックに出場する選手たちは、大会に個人のスマートフォンを持ち込まないよう注意を受けている。「中国での滞在中には、使い捨てのプリペイドスマートフォンを使うんです」と、世界的なスポール競技大会「X Games」で7回にわたってメダルを獲得しているマリノは、Instagramで受けたインタヴューで語っている。また選手たちは、人権侵害に反対する声を上げないようにも警告を受けている。「声を上げると何が起きうるかについての話もありました」と、マリノは同じインタヴューで明かす。中国の首都・北京で冬季オリンピックの開幕が迫るなか、こうした用心を求められているのはマリノだけではない。北京には権威主義的な司法当局者による監視から身を守るべく、平常時以上の対策を施した上で、数千人以上のアスリートやコーチ、(一部の国の)外交官、そしてメディア関係者たちが到着しているのだ。どんな用心を求められているのか。例えば、“使い捨て”するノートPCやスマートフォンを使うことで機密データの抜き取りを防いだり、中国北西部の新疆ウイグル自治区に暮らすイスラム教徒のウイグル人への人権侵害に対する批判とも受け取られる可能性がある言動を慎んだり、といったことだ。「中国に行くなら誰であっても、電子機器を使った行動はすべて筒抜けだと思ったほうがいいでしょうね」と、シンクタンクのオーストラリア戦略政策研究所で国際サイバー政策部門の責任者を務めるファーガス・ハンソンは言う。「中国ではセキュリティ水準が極めて低いのです」

いま中国で起きていること

中国が2008年に夏季オリンピックを開催してから、事態は大きく変化している。中国は技術大国へと成長を遂げ、人工知能(AI)から量子コンピューティングまで、あらゆる分野で高度な能力を獲得しているのだ。中国発の巨大テック企業は、ユーザー数が数億人にのぼる製品を生み出しており、こうした製品は人々の日常生活において欠かせないタスクを支えるようになっている。一方で、中国では自国民を対象に技術を駆使した監視や検閲が幅広く実施されており、政府の支援を受けた高度な技術をもつハッカー集団もいる。そして国連は、ウイグル人の強制収容や不当な扱いに関して警告している。新疆ウイグル自治区では、最大100万人のウイグル人が強制収容所に収容中とされている。米国を含む複数の国は、中国政府が“大量虐殺”に手を染めていると宣言している。ウイグル人が強制労働の働き手として使われ、不妊手術を受けさせられている証拠もある。各国の外交官は、こうした人権問題を理由に大会の「外交ボイコット」に踏み切っている。だが専門家たちは、こうした対応だけでは中国に方針変換を迫るには十分ではないと言う。中国政府の支援を受けたハッカーたちは、ここ数年でこれまでになく容赦ないハッキングを実行するようになっており、その他の関連組織も中国の人権状況を批判する人々を標的に偽情報を流布する作戦を大規模に展開している。